はじめに
高次脳機能障害のある方は、「前はできていたのに」という比較で強く落ち込みやすい傾向があります。現場でも、本人のつらさは症状そのものに加えて、周囲から分かりにくいことや、自分でも説明しづらいことから大きくなりやすいです。
「さっき聞いたばかりのことを忘れてしまう」
「一度に複数のことを頼まれるとフリーズしてしまう」
「以前の自分なら、こんな仕事、簡単にできたはずなのに…」
高次脳機能障害のある方が最も苦しむのは、「できないこと」そのものよりも、「以前の自分との比較」と、「周囲からの誤解(サボっている、やる気がない)」ではないでしょうか。
見えない障害だからこそ、理解されにくい辛さがあります。
しかし、記憶や注意力が低下しても、「道具(ツール)」と「工夫」で補うことは可能です。
眼鏡をかければ遠くが見えるように、脳の機能を補う「眼鏡」を見つければいいのです。
この記事では、あなたの脳の新しいパートナーとなる「代償手段(補う方法)」をご紹介します。
- この記事でわかること:
- ミスを防ぐための「外付けハードディスク(メモ・録音)」活用術
- 注意が散漫になるのを防ぐ「要塞化」テクニック
- 感情の爆発を防ぐ「クールダウン」の作法
結論:「脳の眼鏡(代償手段)」を使いこなし、新しい戦い方を確立する
- 記憶は外注する: 自分の脳を信じず、全てスマホやメモ(外付け脳)に記録する。
- シングルタスク徹底: 「二つのことを同時にしない」環境を物理的に作る。
- マニュアル化: あらゆる業務を手順書に落とし込み、迷う時間をゼロにする。
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目次
1. できないことを嘆くより、「代償手段」を使い倒す高次脳機能障害の対策は、リハビリで機能を回復させることだけではありません。

「別の方法で結果を出す」ことこそが、実は最も現実的で、効果的な近道なのです。
「以前の自分ならできたのに…」という思いは、誰よりもあなた自身が一番感じているはずです。
でも、今のあなたにしかできない「新しい戦い方」があります。それが「代償手段」です。
① 記憶障害:脳を「ただの通過点」にする
情報を脳に「覚えさせよう」とすると失敗します。脳は「通り道」と割り切り、すべて外部に保存しましょう。
- スマホのカレンダー・リマインダー: 予定を入れるだけでなく、「10分前アラーム」を必ずセットします。「行動の開始」も通知してもらいましょう。
- ボイスレコーダー: ミーティングや上司からの指示は、許可を得て録音します。「言った言わない」問題を防ぎ、後で何度でも聞き返せます。
- 写真メモ: ホワイトボードや書類の内容は、書き写すのではなく写真を撮ります。書き写すときのミスを防ぎ、時間も節約できます。
- 定位置ルール: 鍵、財布、社員証など大事なものは「必ずここに置く」という定位置を決め、例外を作りません。
② 注意障害:自分だけの「コックピット」を作る
気が散ってしまうのは、あなたの努力不足ではありません。環境が悪いのです。環境を変えれば、集中力は戻ってきます。
- 物理的遮断: パーテーションで視界を区切る、壁に向かって座る、人通りの少ない席をお願いする。
- 聴覚的遮断: ノイズキャンセリングイヤホンや耳栓を使う(電話応対がない場合)。周囲の雑談が気にならなくなるだけで、集中力は劇的に上がります。
- 机上整理の徹底: デスクの上には「今やっている仕事」だけを置きます。他の書類は引き出しにしまい、視界から消しましょう。
- シングルタスクの宣言: 「複数の仕事を同時に頼まれると混乱するので、一つずつ指示してください」と事前にお願いしておきます。
③ 遂行機能障害:仕事を「調理実習化」する
段取りが組めないなら、最初から段取りが決まっている手順書(レシピ)を自分で作ります。
- チェックリスト: 「メールを送る」という作業も、「①PCを開く」「②メールソフトを起動」「③新規作成をクリック」…と細かく分解し、終わるごとにチェックを入れます。
- テンプレート: メールや日報は、毎回ゼロから書かずに、穴埋めするだけの定型文を用意しておきます。「考える」負担を減らすのがコツです。
- タイマーの活用: 「この作業は30分」と決めてタイマーをセット。時間の感覚がつかみにくい方には特に有効です。
2. 職場での「取扱説明書」の渡し方「頑張ります」という精神論ではなく、「こうすれば機能します」という解決策を提示しましょう。

職場への伝え方(例文)
> NG例: 「記憶力が悪いので、ご迷惑をおかけするかもしれません…」
> OK例: 「新しい指示は、その場でメモや録音をさせていただければ確実に実行できます」
> NG例: 「気が散りやすいですが頑張ります」
> OK例: 「集中するために、壁側の席にしてもらうか、耳栓の使用を許可いただけますか?」
自分の弱みを補う「具体的な条件」を提示することが、プロとしての責任です。
3. 具体的な事例・ケーススタディ
事例:Aさんの場合(40代 男性)
- 悩み: 交通事故後の高次脳機能障害により、以前のように複数の作業を同時に並行して行うことができず、職場復帰を断念していました。
- 変化: アイデンドで作業手順を細かく分解した「自分専用マニュアル」を作成。シングルタスクに集中する訓練を重ねた結果、事務職として再就職を果たし、現在はミスなく業務を遂行されています。
4. あなたは当てはまる?セルフチェックリスト
読者が自分事として捉えられるよう、簡単なチェックリストを設けます。
- [ ] 指示されたことをすぐに忘れてしまう
- [ ] 周りに雑音や人がいると、作業に集中できない
- [ ] 以前に比べて、感情のコントロールが難しくなったと感じる
- [ ] 次に何をすべきか、段取りを立てるのが苦手になった
ひとつでも当てはまる方は、ぜひ一度ご相談ください。
5. アイデンドでのサポート
アイデンドでは、「できないこと」を責めるのではなく、どの道具や手順があれば動きやすくなるかを一緒に探しています。記録の残し方や手順の見える化など、小さな工夫を積み重ねて安定につなげる支援をしています。
アイデンドでは、高次脳機能障害のある方が、自分の特性を整理し、実務に近い環境でトレーニングを行えるようサポートしています。
- ワークサンプルの実施: 実際の伝票入力や軽作業を通じて、どのような「代償手段」が有効かを一緒に試行錯誤します。
- 職場定着支援: 就職した後も、ジョブコーチと連携し、長く働き続けられるよう見守り続けます。
スタッフからのワンポイントアドバイス
> スタッフより
> 「昔はもっとできたのに」と過去の自分と比較してしまう時もあるでしょう。でも、今のあなただからこそ、人の痛みを知り、工夫する強さを持っています。私たちはその「新しい方法」を見つけるための伴走者です。
まとめ
高次脳機能障害を抱えながら働くことは、失った能力を嘆く旅ではなく、新しい能力(工夫する力)を獲得する旅です。
- 道具(ツール)を味方につける。
- 作業をシンプルにする。
- 周囲の助けを借りる。
「昔のやり方」を手放し、「今のあなた」に最適な働き方をデザインしていけば、必ず道は開けます。
アイデンドは、八戸・十和田地区を中心に、一人ひとりの「自分らしさ」を大切にする就労継続支援B型事業所を展開しています。また、クリエイティブな活動を支援する「manaby CREATORS」ブランドを通じて、Web制作やデザインなど、従来の枠にとらわれない新しい働き方の選択肢も提供しています。地域の皆さまと共に、一歩ずつ未来へ歩んでいける場所でありたいと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q. 診断は受けていますが、記憶力以外は問題ありません。それでも利用できますか?
はい、もちろんです。高次脳機能障害は症状が多岐にわたります。特定の苦手分野に対する「代償手段」を見つけることが、働き続けるための大きな武器になります。
Q. 職場には障害のことを伏せて働きたいのですが、可能でしょうか?
可能です。ただし、業務上の工夫や配慮が必要な場面もありますので、どのように伝えればスムーズに理解を得られるか、スタッフと一緒に検討していきましょう。