はじめに
双極性障害の就労支援では、調子が悪い時よりも、むしろ調子が良すぎる時の判断が難しいことがあります。現場でも、「今ならいける」と頑張りすぎた後に一気に崩れてしまうことがあり、安定して働くにはアクセルだけでなくブレーキの工夫が欠かせません。
「調子が良い時は徹夜でも働けるのに、翌週には布団から一歩も出られない」
「過去の自分がやった仕事が、まるで他人のもののように感じる」
双極性障害(躁うつ病)の方にとって、自分の「気分の波」は、まるでコントロール不能なジェットコースターのように感じられるかもしれません。
「性格の問題だ」と自分を責めてしまいがちですが、これは脳の病気であり、あなたのせいではありません。
重要なのは、波を消すことではなく、「波の乗り方(付き合い方)」を覚えることです。
この記事では、激しい波に翻弄されず、あなたらしく働き続けるための「操縦テクニック」をお伝えします。
- この記事でわかること:
- 自分の「取扱説明書」を作るための記録術
- 「躁」と「鬱」、それぞれの時期の乗り切り方
- クビにならないための「職場への根回し」
結論:波はなくならない。だからこそ「7割運転」をマイルールにする
- 記録(ログ): 自分の「波の予兆」を知るだけで、対策が打てるようになる。
- ブレーキ: 調子が良い時こそ、あえて「アクセルを緩める」勇気を持つ。
- チーム戦: 医師や支援者を巻き込み、客観的なブレーキ役になってもらう。
🎥 記事内容を図解・動画・音声でチェック
📺 解説動画(YouTube)
🎙️ 解説音声
📑 スライド資料(PDF)
お手元でじっくり確認したい方や、保存しておきたい方はこちらの資料をご活用ください。
目次
1. 気分の波をコントロールする「自分研究」

敵を知るには、まず自分から。なんとなく過ごすのではなく、データを味方につけましょう。
「自分のことなのに、自分が一番分からない」と感じることはありませんか?それは当然のことです。波の中にいる時は、波を客観的に見ることができないからです。だからこそ、記録をつけて「過去の自分」に教えてもらうのです。
① 気分グラフ(ライフチャート)で可視化する
「なんとなく調子が悪い」では対策が打てません。毎日、以下の3つだけ記録してください。
- 気分スコア: -5(最低のうつ)〜 0(普通)〜 +5(躁状態)の10段階
- 睡眠時間: 「何時間寝たか」だけでなく「何時に寝て何時に起きたか」も
- 大きな出来事: 仕事のストレス、嬉しかったこと、体調不良など
1〜2ヶ月続けると、「睡眠が5時間を切ると、3日後に躁傾向が出る」といったあなただけの法則が見えてきます。これが分かれば、予防ができるようになります。
記録の方法:
- アプリ: 「メンタルヘルス日記」「気分ログ」などのアプリ
- 紙: 手帳に〇×をつけるだけでもOK
- スプレッドシート: Googleスプレッドシートで自作
② 早期警戒サイン(予兆)リストを作る
躁と鬱には、必ず「前触れ」があります。自分だけの「黄色信号リスト」を作っておきましょう。
- 躁のサイン例:
- クレジットカードの使用頻度が増える
- SNSの投稿が長文になる、頻繁になる
- 早口になる、声が大きくなる
- 睡眠時間が減っても平気になる
-
新しいアイデアが止まらなくなる
-
鬱のサイン例:
- お風呂に入るのが億劫になる
- ニュースを見るのが辛くなる
- 返信が遅くなる、億劫になる
- 料理ができなくなる(コンビニ飯が増える)
このサインが出たら「黄色信号」。すぐに主治医に相談するルールを決めておきましょう。遠慮は禁物です。
2. 躁・鬱それぞれの「サバイバ

ル術」
状態によって、戦い方は180度変わります。
躁(軽躁)状態:「ブレーキ」こそが仕事
調子が良い時は「自分は無敵だ」と感じますが、それは脳のエラーです。
- 鉄の掟: 「重要な決断(退職、高額な買い物、契約)は絶対にしない」。
- 他人に委ねる: 信頼できる上司や家族に「私が急に新しいアイデアを話し出したら止めて」とお願いしておきます。
- 定時で帰る: 仕事が楽しくても、強制的にPCを閉じて帰りましょう。
鬱状態:「省エネ」で嵐をやり過ごす
自分を責めるエネルギーすらもったいない時期です。
- 生存目標: 「出社して席に座っていたら100点」。業務効率は二の次です。
- 作業の分解: 「メールを返す」ではなく、「PCを開く」「メールソフトを立ち上げる」「読む」と細かく分解し、一つずつこなします。
- 休む勇気: 本当に辛い時は、戦略的撤退(休職・休暇)を選びましょう。命より重い仕事はありません。
3. 職場に求めるべき「安全ネット」
ここで大切なのは、調子の波を本人だけの根性で管理しないことです。現場では、予兆の共有、相談相手の固定、働きすぎを止める役割を周囲と分けることで、波があっても長く続けやすくなります。
一人で頑張る必要はありません。職場という環境を味方につけましょう。
- 定期面談: 月に1回、上司や産業医と面談し、「今の気分の波」を報告します。客観的なフィードバックをもらうことで、ズレに気づけます。
- 業務の質と量の調整:
- 躁気味の時: 創造的な仕事ではなく、正確性が求められる事務作業(ルーチンワーク)に徹する。
- 鬱気味の時: プレッシャーのかかる交渉事は避け、バックオフィス業務に回してもらう。
まとめ
双極性障害との付き合いは、一生続く航海のようなものです。
嵐の日もあれば、凪の日もあります。
- 記録をコンパスにする。
- 躁の時はアンカー(重り)を下ろし、鬱の日は帆を畳む。
- 一人で操縦せず、クルー(周囲)を頼る。
「完璧な健康」を目指すのではなく、「波があっても転覆しない航海術」を身につけていきましょう。
アイデンドは、八戸・十和田地区を中心に、一人ひとりの「自分らしさ」を大切にする就労継続支援B型事業所を展開しています。また、クリエイティブな活動を支援する「manaby CREATORS」ブランドを通じて、Web制作やデザインなど、従来の枠にとらわれない新しい働き方の選択肢も提供しています。地域の皆さまと共に、一歩ずつ未来へ歩んでいける場所でありたいと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q. 気分の波がある中で、仕事の面接ではどう伝えればいいですか?
A. 全てを打ち明ける必要はありませんが、「体調管理のために定期的な通院が必要であること」や「安定して働くための自分なりの工夫(記録をつけている等)」をセットで伝えると、企業側の安心に繋がります。
Q. 調子が良すぎて働きすぎてしまうのを止めるには?
A. 「調子が良いと感じる時ほど、定時で帰る」というルールを徹底しましょう。また、家族や支援者に「話し方が早くなったら教えてほしい」と頼んでおくのも、客観的なブレーキとして非常に有効です。
4. アイデンドでのサポート
アイデンドでは、気分の波を「性格のムラ」とは見ず、早めに気づいて負荷を調整するサインとして扱っています。調子が良い時ほど無理を重ねないように、本人と一緒にブレーキのかけ方を確認しながら支援しています。
アイデンドでは、双極性障害を抱えながら再就労を目指す方のパートナーとして、以下の支援を行っています。
- 生活記録の振り返り: 支援員と一緒に気分の記録を確認し、安定した通所をサポートします。
- 無理のない作業設定: その日の体調に合わせ、躁・鬱の状態を考慮した作業提供を行います。
スタッフからのワンポイントアドバイス
> スタッフより
> 波があることは、あなたの「弱さ」ではありません。波を乗りこなそうとするその姿勢そのものが、強さです。その挑戦を、私たちは全力で応援します。今日、この記事を読んだこと自体が、より良い未来への第一歩です。